ムクロジ(無患子、学名: Sapindus mukorossi)はムクロジ科ムクロジ属の落葉高木。
東アジアから東南アジア・インドの温帯域に分布し、日本では寺社に植栽された巨木も見られる。10枚前後の偶数の小葉を持つ大型の羽状複葉で、秋は黄色に紅葉する。果実は石鹸代わりになり、soapberryとも呼ばれる。種子は羽根つきの羽根の玉に使われる。
名称
和名「ムクロジ」の由来は、実や種子に薬効があることから、中国名(漢名)で「無患子」といい、それを日本語で「ムクロシ」の読みを当てて、それが転訛したとされる。別名、ムク、シマムクロジ、ムニンムクロジ、セッケンノキともよばれる。
学名
ムクロジは1788年にドイツのヨーゼフ・ゲルトナーの『植物の果実と種子について』(De Fructibus et Seminibus Plantarum) で Sapindus mukorossi という学名が与えられたが、種小名 mukorossi は日本語の俗称、つまりまさに「ムクロジ」の名に基づいたものであると考えられる。その後ポルトガルのジョアン・デ・ルーレイロが1790年に『コーチシナ植物誌』(Flora Cochinchinensis) で記載した Sapindus abruptus、イギリスのウィリアム・ロクスバラがベンガル地方で見つけ報告した Sapindus detergens、ヒマラヤ地域やネパール、シレットに見られた Sapindus acuminatus、1935年に日本の津山
分布
インドから東アジアの温帯およびインドシナにかけて分布し、具体的にはネパール、インド(旧ジャンムー・カシミール州、ヒマーチャル・プラデーシュ州、ウッタラーカンド州、アッサム州を含む)、ミャンマー、タイ、ラオス、ベトナム、中華人民共和国(海南省、南中央部、南東部)、台湾、朝鮮、日本(南西諸島、小笠原諸島、火山列島を含む)に自生し、パキスタンやジョージアにも持ち込まれている。
日本では新潟県・茨城県以西の本州、四国、九州で見られる。低地、あるいは山地に自生する。日本では、庭木にも植えられ、しばしば寺や神社に植えられている。
性質
落葉広葉樹の高木で、樹高は7 - 15メートル (m) ほどになり、中には20 mを超える巨木になる。樹形は逆円錐形になる。雌雄同株。樹皮は黄褐色で平滑、老木になると裂けて大きく剥がれる。一年枝は、太くて無毛、皮目が目立つ。
葉は互生し、40 - 70センチメートル (cm) の偶数羽状複葉で、小葉は8 - 16枚つき、先端の小葉はない。小葉は長さ7 - 15 cm、広披針形で全縁。葉軸に対して小葉は完全な対生ではなく、多少ずれてつく。晩秋になると葉は黄葉する。鮮やかな黄色から、次第に色濃くなって、葉が散るころには縮れながら褐色が強くなる。枯れ葉も黄色を帯びた明るい褐色で、目立つ。ムクロジ目の樹木は紅葉が鮮やかなものが多い。
花期は6月ごろで、花は淡緑色で、枝先に30 cm程度の大きな円錐花序となって多数咲く。花は直径4 - 5 mm、雄花には8-10個の長い雄蕊、雌花には短い雄蕊と雌蕊がある。花穂はほとんどが雄花である。
果期は10 - 11月ごろで、果実は直径2 cmの球形で、液果様で黄褐色に熟して、落葉後でも1月ごろまで残っている。果実のなかに黒くて大きな球状の種子を1個含む。
冬に落葉すると、葉痕の面は蝋質感があり、中央がやや色づいていて、維管束痕が3個あることから、笑った顔や猿の顔のようにも見える。冬芽は葉痕に比べるとかなり小さい円錐形で、副芽を下に付ける。仮頂芽は側芽より小さく、芽鱗は4枚つく。
利用
果皮はサポニンを含み、サポニンには水に溶かすと泡立つ成分があり、サイカチ同様石鹸代わりに用いられる。種子はかたく、数珠や羽根突きの羽根の元にある黒い玉の材料にされる。
ムクロジの黒い果実の皮を、漢方薬では延命皮と称している。女性用避妊具として利用された。
脚注
参考文献
- 亀田龍吉『落ち葉の呼び名事典』世界文化社、2014年10月5日。ISBN 978-4-418-14424-2。
- 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、103頁。ISBN 978-4-416-61438-9。
- 田中潔『知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2011年7月31日、62頁。ISBN 978-4-07-278497-6。
- 西田尚道監修 学習研究社編『日本の樹木』学習研究社〈増補改訂ベストフィールド図鑑 5〉、2000年4月7日、220頁。ISBN 978-4-05-403844-8。
- 林将之『葉っぱで調べる身近な樹木図鑑』主婦の友社、2008年2月29日、171頁。ISBN 978-4-07-258098-1。
- 林将之『紅葉ハンドブック』文一総合出版、2008年9月2日。ISBN 978-4-8299-0187-8。
- 林将之『葉っぱで気になる木がわかる:Q&Aで見わける350種 樹木鑑定』廣済堂あかつき、2011年6月1日、157頁。ISBN 978-4-331-51543-3。
- 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、254頁。ISBN 4-522-21557-6。
外部リンク




